HAM  (HTLV-Ⅰ associated myelopathy)

 HAMはHTLV-Ⅰassociated myelopathyの略称で,レトロウイルスの一つであ

るHTLV-Ⅰ(human T-cell lymphotropic virus type Ⅰ)が関与した痙性脊髄麻痺で,新

しいclinical entlyとして納らにより報告されたものである。

 緩徐進行性の痙性歩行障害が主症状であり,しばしば排尿障害と軽度ながら感覚障害

を伴うことが多い。診断はこのような臨床像に加え,血中・髄液中のHTLV-Ⅰ抗体が陽

性であることによりなされる。(Table 1)

 熱帯地方に以前よりtropical spastic parapalysis熱帯性痙性脊髄麻痺(TSP)と呼

ばれる疾患の存在が知られていたが,この大半はHTLV-Ⅰが関与して起こっていること

が明らかとなり, HTLV-Ⅰ陽性のTSPとHAMは臨床的にも病理学的にも同一の疾患

と考えられることが最近WHOの学術会議(1988年12月 鹿児島)で確認され,両者の

世界的総称としてHAM/TSPと呼ぶことが合意された。

 本症は日本ですでに疑い例も含め793例を越す症例が知られており,ハワイに移住し

た日系人からも本症の発症を見ている。日本以外ではこれまで300例の報告がみられる。

頻度的にはHTLV-Ⅰのキャリアの多い地域を中心に今後さらに多数の症例の存在が確認

されていくものと考えられる。

 臨床像の概略はTable 1にも記されているが,男女比は1:2~1:2.5と女性に多い。発

症年齢は9~80歳までとさまざまであるが,30~60歳台の発症がもっとも多い。

 初発症状は歩行障害(とくに足のつっぱった感じ)と排尿障害(とくに??)が多く,

感覚異常(足のジンジン感)で始まる人もある。発症後の症状の進行のスピードは個人

差が大きく,半年以内に歩行障害のくる人から発症後40年以上たっても歩ける人までさ

まざまである。

 HTLV-Ⅰの感染経路はHAM患者の2~3割が輸血由来であり,それ以外の大半は母子

垂直感染で,一部性交(男→女)感染(おそらくHAMの1~2割)の3種類がわかって

いる。輸血よりHAM発症までの期間は短いものは1ヶ月,長い場合数十年で大半は3年

以内である。

 日本におけるキャリア当りのHAMの発症率は,HTLV-Ⅰキャリア2,000人に約1名の

HAM患者が存在する。

 経口副腎皮質ホルモン投与やAzathioprineなどの免疫抑制剤の投与で症状が一過性に

改善することから,発症に免疫的期序の関与が推定されている。しかしながらHTLV-Ⅰ

の神経組織内の存在はまだ確認されておらず,発症のメカニズムは未解決の部分が残さ

れている。

Table 1 HAM診断指針 改変

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Ⅰ.主要事項

    1) 緩徐進行性でかつ対称性の錐体路障害所見が前景に立つ脊髄障害。

    2) 髄液ならびに血清のHTLV-Ⅰ抗体が陽性。

Ⅱ.参考事項

    1) 血液や髄液中にATL様細胞を認めることが多いが,腫瘍性増殖を示さず,

     成人T細胞性白血病ではない。

    2) 原則として遺伝性はなく,成人発症が多いが,若年発症例もある。

     男女比は約1:2。輸血後発症群が存在し,その場合,輸血の半年~数年後に

     発症することが多い。

    3) 下顎反射は正常なことが多い。(まれに亢進することもある。)

    4) しばしば膀胱直腸障害を伴う。

    5) 下半身に軽度の感覚障害を認めることがある。

    6) 重症例では四肢(とくに下肢)に脱力と筋萎縮を伴う傾向がある。

    7) 手指のふるえ,眼球運動障害,一過性脳神経症状,一過性脳髄膜炎症状を伴

     うこともある。

    8) 副腎皮質ホルモン投与によりしばしば症状の改善を認める。

    9) 髄液に細胞増多,(通常軽度)を認めることが多く,IgG増加,オリゴクロ

     ーナルバンドを認めることもある。

   10) 抗HTLV-Ⅰ抗体陽性者の頻度の高い地域ほど本症の有病率が高い。

   11) 他の疾患(脊髄腫瘍,脊髄圧迫病変,スモン,多発性硬化症,その他の脊髄

     障害)と鑑別される。

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鹿児島大学第三内科教授 納 光弘

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